「ブラッシングが苦手な患者さんがいます。来院するたびに同じような所にプラークが付着している場合、先生はどのようにお声がけをされますか?」

「ブラッシングが苦手な患者さんがいます。来院するたびに同じような所にプラークが付着している場合、先生はどのようにお声がけをされますか?」

歯科衛生士さんからいただいた質問の中で多かったものを、直接セミナーで講師をしている歯科衛生士の先生にお話を伺う「教えて先生!お悩み相談室」。

第2回となる今回も、前回に引き続き埼玉県の古畑歯科医院にお勤めの波多野映子先生に「ブラッシングが苦手な患者さんへのお声がけ」について教えていただきました。

 

繰り返しお伝えして、患者さんに理解していただくことが大切

そのような患者さんには、プラークは食渣ではなくて細菌の塊だということ、う蝕や歯周病の原因になることを繰り返しお伝えすることが重要だと思っています。

患者さんに伝える際の3つのキーワードが「感染症」「生活習慣病」「慢性疾患」です。う蝕や歯周病は「感染症」であり、「生活習慣病」「慢性疾患」であることを必ず患者さんに伝える必要があります。ですから、プラークを取り除くということは感染症対策をしていることだと、患者さんが理解しているかが大きなポイントになります。

同じ場所にプラークが付くということは、ブラッシングの習慣はあっても歯の一本一本をきちんと磨く意識が低いのかもしれません。舌側であれば、磨けているつもりなのに毛先が当たっていないのかもしれません。これらを患者さんに確認していくのですが、「ここはきちんとプラークが取れているので、この部分に残っているのはもったいないですよ」と、まずは上手なところは褒めることが大切です。なるべく患者さんがやる気になっていただけるような声かけがポイントです。

医院に位相差顕微鏡があれば、プラークの写真を撮って細菌の様子を見せるのもよいでしょう。決して患者さんを脅かすわけではありません。説明だけでは響かない方には気づきを促すアプローチになります。位相差顕微鏡がなければ、用意しておいた写真や動画をお見せしたりするのも良いと思います。

そして、口の中は細菌にとって居心地の良い環境であることをお伝えします。口の中だけでも数百種類の細菌がいて、その中にう蝕や歯周病を引き起こす細菌がいます。歯周病の場合には、免疫や抵抗力が弱っているときには特に注意が必要です。細菌がバイオフィルムを形成しているということを、患者さんの口腔内の状況と照らし合わせて伝えています。

 

患者さんにプラーク除去後の感触を覚えていただく

初診に近い方は術者磨きをして患者さんの歯肉状態や感受性を確認して記録します。患者さんに歯ブラシを当てて痛がる場合は、その部位が普段あまり磨けていない可能性が考えられます。また、PMTCも効果的です。プラークを除去してきれいになった後に、患者さんに舌で感触を覚えていただきます。患者さんからは「つるつるしていて違います」という感想をいただくことが多く、この感触を家庭で磨く際の参考にしていただいています。

定期的にいらしている方や久しぶりに来院された方には「古いプラークを取っておきましたので、これで磨きやすくなると思います。この状態を維持できるように次回まで頑張ってみましょうか」、「次回までワンポイントでこの部分だけ練習してみましょうか」という指導をしています。

 

歯ブラシを持ってきていただくのも意識の向上には効果的

なかには毛先が開いた歯ブラシを何ヶ月も使っていたり、使っている歯ブラシが合っていなかったりする可能性も考えられます。プラークコントロールに何かしら問題がある患者さんについては、使っている歯ブラシを毎回お持ちいただくように声かけをしています。実際に見てみると毛先が開いている段階を通り越して毛が短くなっているケースもありました。また、過去には「年に1回しか交換しません」という患者さんもいたほどです。まずは、なぜ歯ブラシを替えなければいけないのかをお伝えして、歯ブラシが消耗品であることを患者さんご自身に認識していただく必要があります。

 

患者さんを否定しないようにする

どの部分を、何を使って、どのような磨き方でプラークを取っていただくのか。それをお伝えする際のポイントは、歯磨きの難しさを伝えながら患者さんの否定から入らないこと。患者さんには「今までの習慣を変えることは、右手で持っている箸を左手に持ち替えるぐらい難しいことです」と伝え、次回には「いかがですか?この間のやり方は難しかったですか?」という声かけをするようにしています。

患者さんの中には「そうでもなかったですよ」という方もいらっしゃいますが、もし、うまくプラークコントロールができていなければ染め出しを行うことで現状の認識をしていただきます。「難しかったです」という方の場合は手の動きを確認し、場合によっては別の方法や歯ブラシの持ち方の指導をします。本来であれば最初の段階で見極めておくべきことですが、テクニックの問題もあります。ですから、前回よりもプラークが取れていれば「練習すれば取れるようになります。すぐに上手になれなくてもいいと思いますよ。このまま練習していただければ1ヶ月、2ヶ月で変わってくると思いますよ」「お時間取るのはどうですか?時間は取れそうですか?」などとお伝えしています。

 

行動できていない患者さんには根気よく説明をしていく

一番難しいのはそもそも行動をしていなかった患者さんの場合です。その場合は「なぜプラークを取らなければいけないのか?」というポイントから再度説明をします。種をまいて芽が出なかったら再度種をまき、芽が出て花が咲くのを待つような作業になります。

私もある患者さんとのやり取りを通してわかったことですが、患者さんはご自身の事情をなかなか言い出せないことも多くあります。つらそうな雰囲気をしていたり、怪訝そうな雰囲気をされていたりする方、セルフケアが難しい方の場合はPMTCや術者磨きといったプロケアの割合を高めて、患者さんの様子を「長期的」に観察することが大切だと考えるようになりました。セミナーでお伝えしている「長期的」というキーワードもこの経験が元になっています。

 

さいごに

歯周治療に関わっていると歯科衛生士も本気で頑張りますし、患者さんにも頑張って欲しいという思いが強く出てしまい、無意識に患者さんのハードルを上げているケースがあります。

歯科衛生士さんが担当制かそうでないかにかかわらず、かかりつけ歯科医院であれば来院歴が長い患者さんが多いと思います。だからこそ「長期的に」というのはポイントだと思います。

患者さんを否定したり責めたりするのではなく、患者さんの現状を鑑みながらセルフケア・プロケアをうまく活用して長期的に患者さんとお付き合いしてみてください。

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