「寝たきりの高齢患者さんの口腔ケアには何を使用されていますか?」

「寝たきりの高齢患者さんの口腔ケアには何を使用されていますか?」

歯科衛生士さんから多くいただくご質問を掘り下げてお届けする「教えて先生!お悩み相談室」。
今回も埼玉県三郷市にある、みさと健和歯科の佐藤美智代先生にお話を伺いました。

前回は「自立している患者さんへのブラッシング指導」について、先生のご経験も踏まえてお話を伺いました。第2回の今回は「訪問診療で寝たきりの患者さんに対してどのようなケアをされているのか」について、詳しくお話していただきます。

 

吸引をして誤嚥を防ぐことが大切

寝たきりの高齢患者さんのケアに関しては、「吸引して誤嚥させない」ということがとても大事です。そのため、しっかりと汚れを回収するということが大切になってきますので、強く意識しています。

寝たきりの患者さんでは、うがいもままならない方が多いため、基本のケアをしてから汚れを回収するために吸引をしています。スケーリングの時はもちろん、ブラッシングするときもしっかり吸引しています。ジェル状の歯磨剤をよく使うほか、低発泡タイプのフッ化物配合歯磨剤も使います。

 

寝たきり患者さんの口腔ケアの手順とは?

まず、口が乾燥しているために始めに保湿をします。

口唇までスポンジブラシにジェルをつけて保湿しながら食渣をぬぐい、口腔観察をしています。その後に吸引をして、ブラッシングをします。

そして最後にもう一度保湿をしています。口腔機能が低下している人には、保湿を行うタイミングで頬のあたりのマッサージもしています。ここでは、フッ素や殺菌剤など、う蝕・歯周病に対して薬理効果がある製品を使っています。私は口腔ケアを行うときはスポンジブラシを使うことが多く、マッサージもスポンジブラシを使っています。

 

口腔ケアのためには「うがい」が肝心

また、患者さんが寝たきりであったとしても、ご自身でうがいができる方にはうがいをしてもらいます。なぜなら、うがい自体がリハビリになるからです。

自分でうがいができるかどうかの見極めはしっかりと行っていく必要があります。見極めのコツとしては、発語がしっかりできていない人はうがいができないことが多く、逆に、発語がしっかりしていれば舌も動くため、きちんとうがいができる方が多いです。

うがいができる方は、食渣があるかを確認するため口腔観察をします。訪問の現場では、どこに食渣が残っているかは重要な問題です。体が自立していて自分で磨けるという患者さんでも、認知症を発症していることがあります。認知症も程度の差はありますが、訪問診療をする場合には認知症の問題が関わってくることがあるので、観察は重要です。

観察のポイントとしては、食渣が残っていないか、残っているとしたら右と左のどちら側に多いのか、舌に残っているか、義歯が汚いままか、というところです。

 

自立している認知症の方の口腔ケアが重要

また、訪問診療に携わる人にも意識していただきたいことがあります。自立している認知症の方が、もっとも口の中が汚いということが多いです。なぜなら、介護者の介助が入らずに患者さんご自身で歯磨きを行うため、細かなケアができない場合が多いからです。

実は、病院でも施設でも要介護5になっていて、看護師や介護士がきちんと見てくれている人のほうが、口腔内はきれいだったりします。

自立している方の口腔観察で汚れが見つかった場合には、食事前に義歯を外したり、食べる前にうがいをしたりということをお願いしています。また、食べた後に義歯を洗うのが難しくても、うがいだけはするようにしていただくなどできる範囲でのケアをおすすめします。この他にも、寝る前にヘルパーさんに介助で入ってもらうなど、どのタイミングであればヘルパーが入りやすいか、というところまで考えて、患者さんをうまくフォローできるような口腔ケア計画を一緒に考えています。

「寝たきり」とはいっても、胃瘻(いろう)の寝たきり、脊椎損傷の寝たきり、麻痺があるための寝たきり、下半身が動かないために寝たきりになっている……というように、患者さんごとに置かれている状況はそれぞれ異なります。そのため、一人一人に対するアプローチの仕方は変わってきますし、変える必要があります。

患者さんごとに口腔機能の状況は異なってきます。だからこそ、口腔観察を欠かさずに、患者さんに合ったケアの方法を考えていくことが大切です。

 

痂皮のケアも大切

また、痂皮(かひ)についてのケアも重要です。

胃瘻の場合は、口を使わないため食渣はありませんが、痂皮のケアが必要になってきます。歯がたくさん残ったままで胃瘻になってしまうと、感染源がたくさんあるため誤嚥性肺炎のリスクがどうしても高くなります。

普段の口腔観察を行うときにも、なかなか口蓋まで見る意識がないと上顎まで見ることが難しく、痂皮の有無まで見分けづらい場合があります。光を当てて見てみると判別しやすいのですが、暗いところで見ると痂皮が粘膜の一部に見えることもあります。ブラシで簡単にケアしただけでは気が付かずに、手で触ってようやく分かる、ということもありますので、痂皮については十分に注意して確認する必要があります。

寝たきりの患者さんの場合は、一番重要な問題といえる誤嚥性肺炎をどのように防ぐかを考える必要があります。痂皮を作らずケアするためにも、やはり保湿をすることがとても大切です。

そして、乾燥を防ぐためには口を閉じさせるのかも保湿の大切なポイントです。介護者が一日に何度も口腔状況をチェックしてケアするというのはなかなか難しいですが、味のある保湿剤を使用する事で嚥下を誘発させ口を閉じさせるきっかけにもなります。手軽な口腔保湿剤のスプレーやジェルを使うなどして、こまめにケアができる アイテムを提案することも大切ですね。

 

さいごに

訪問診療の際の寝たきり高齢患者さんへの口腔ケアについては、やはり患者さんそれぞれが置かれている状況を見たうえでの対応が必要になります。多くの場合、薬を飲まれていますので口腔乾燥が問題となります。そのため「保湿」が欠かせませんし、うがいを自分でできる方には自分でやっていただくことも口腔機能を維持するためには有効な手段です。

また、たとえ胃瘻であったとしても誤嚥性肺炎について気を付ける必要があり、こまめなケアが必要ですので注意しましょう。

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