知っておきたい「酸蝕症」のこと

知っておきたい「酸蝕症」のこと

う蝕や歯周病の他に歯を失う要因として「酸蝕症」があります。以前は大人が罹患するものだと思われていましたが、食生活の変化により子どもでも酸蝕歯を有するケースが起きてきています。

症状が進行すると知覚過敏やう蝕のような痛みを引き起こすこともあるため、早めの対処が望まれます。

今回は、「酸蝕症」の原因や対処法についてお伝えします。

 

そもそも酸蝕症とは?

酸蝕症は歯の化学的な損傷の一つです。酸蝕症に罹患した歯は「酸蝕歯」と呼ばれます。

酸性の強い飲食物を摂取することなどで、口腔内のpHがエナメル質の脱灰する5.5~5.7以下になることで脱灰が起きます。この症状が酸蝕症ですが、症状の進行が非常にゆっくりなため、ある程度症状が進行してから気づくという患者さんも多くいます。

 

酸蝕症とう蝕の違いは「細菌」の関与があるかどうか

酸蝕症とう蝕はエナメル質の脱灰が起こるという点では似ていますが、その違いは細菌の関与があるかどうかです。

ご存じのように、う蝕はプラーク中の細菌が酸を作り、その酸によって脱灰が起こる疾患です。一方、酸蝕症は口の内外から口腔内に入ってきた酸が直接的な原因で脱灰が起こります。

酸蝕症の症状に気づきにくいというのは、酸が口腔内全体に広がるためにその範囲が広くて浅いことに起因しています。

 

酸蝕症の原因とは?

酸蝕症の原因としては、(1)職業性の要因、(2)薬剤や病気、(3)酸性飲食物の過剰摂取が主なものです。

(1)職業性の要因

職業性の要因としては、メッキ工場やガラス細工工場などの職場において、酸性ガスの曝露・吸引をすることで発症するケースがあります。

(2)薬剤や病気

頭痛薬に使われるアセチルサリチル酸やビタミンC・鉄分サプリメントなどの酸性の薬剤も酸蝕症の原因となります。薬剤と歯が接触する時間・頻度がリスクに影響することから、常用していることで酸蝕のリスクは高くなります。

また、嘔吐や逆流性食道炎、摂食障害(過食症・拒食症)などの病気によって胃酸が逆流することも酸蝕症の要因となります。胃酸のpH は1.0~2.0と非常に強い酸のため、酸蝕症のリスクも比例して高くなります。

(3)酸性飲食物の過剰摂取

酸蝕症を起こす可能性のある飲食物は現在ではたくさんあります。代表的な例が、炭酸飲料や果汁飲料・スポーツドリンクなどの酸性飲料や柑橘系果物です。

こちらはさまざまな市販飲食物のpHの測定データです。炭酸飲料はわかりやすいのですが、乳幼児用イオン飲料などのあまり酸味を感じない飲料でも酸性度が高いものもあり、大人だけではなく子どもも注意が必要です。

出典:ライオン歯科衛生研究所

 

 

酸蝕症の予防方法

酸蝕症を予防する方法は、シンプルに口腔内のpHが5.5~5.7以下になる時間をできる限り短くすることです。

1.だらだらと食べたり飲んだりしない

デスクワーク時・スポーツ時など、だらだらと酸性飲料を飲み続けることで酸蝕症のリスクは高まります。理由の一つとして、だらだら食べたり飲んだりすることでだ液の緩衝機能が働きにくくなり、酸を中和する効果が薄れてしまうことが挙げられます。飲料であれば直接容器から飲まずにストローを活用することも一つの方法です。

2.歯磨き・うがいをする

食事をしたら歯を磨く、これが基本の予防法です。しかし、外出先などで歯を磨くのが難しい場合や仕事中の場合はすぐにサッと水うがいをすることも効果的です。デンタルリンスがあれば、さらに効果的なのは言うまでもありません。

 

治療・予防には食生活習慣の改善が必要だが、まずは否定しないことが大切

食生活習慣は個々のライフスタイルの違いによって千差万別なうえ、夏場は水分摂取量が増えたりするなど季節によっても変化します。

酸蝕症のリスクを下げるには前述のように食生活習慣の改善が必要になりますが、いきなり「改善してください」と言われても患者さんにとって難しいのは想像できると思います。

そこで大切になってくるのがトーク術です。基本は、相手を否定せずに代替案を出すこと。トークの方法については過去に何度かご紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

SPTで大切なセルフケア。患者さんがセルフケアを続けてくれるトーク術とは?

間食が多い患者さんのう蝕リスクを効果的に減らすアドバイスとは?

初診時のTBIで患者さんにどのような言葉をかけていますか?

 

まとめ

酸蝕症は現代の食生活の変化により子どもでも起こり得る疾患です。予防法としては、シンプルに「酸と歯の接触時間を減らす」ことです。

食後に歯を磨くことはもちろん、歯を磨くことが難しければデンタルリンスや水でうがいをするだけでも違いが出ます。

ご紹介したトーク術も参考に、ぜひ患者さんの食生活習慣の改善を図ってみてください。

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