「患者さんへのTBI 指導の内容がワンパターンになってしまいます。先生はTBI の際にどのようなことを気をつけていらっしゃいますか?」
「自分の医院ではこうやっているけど、他の歯科衛生士さんはどのようにしているのだろう?」
「歯科衛生士が一人しかいないからなかなか聞きたいことが聞けないなぁ」
日々、歯科衛生士業務をしているとさまざまな疑問にぶつかるかもしれません。実際、セミナーを行った際にはたくさんのご質問をいただきます。
セミナーでいただいた質問の中で多かったものを直接セミナーで講師をしている歯科衛生士の先生にお話を伺い、より多くの歯科衛生士さんにお届けしたい!そのように思い誕生したのが、この「教えて先生!お悩み相談室」という企画です。
今回は埼玉県の古畑歯科医院にお勤めの波多野映子先生に「TBIのポイント」について教えていただきます。
まずは、ブラッシング習慣と使用ツールの確認を
TBIでは最初に患者さんの問題点を確認することから始めます。ただし、いきなり患者さんに問題となる部分を聞くようなことはしません。最初に行うことは、会話の中でブラッシング習慣がついているかを確認することです。もし、ブラッシング習慣がついていないとしたら、磨き方や歯ブラシの説明をいくらしても、のれんに腕押しとなってしまい効果的ではありません。
ブラッシング習慣がついている方の場合、磨き方やプラークを取り除けるかといったテクニック面を確認します。また、患者さんが使っている歯ブラシなどのツールの選択も重要です。
初診の患者さんの場合
初めて対応する患者さんにはまず、どこに問題があるのかを「ブラッシング習慣があるのかどうか」 「テクニックに問題があるのかどうか」という切り口から考えるようにしています。
第一声のかけ方についてですが、経験が浅いうちは「いつもどれだけ磨いていますか?」「いつ磨いていますか?」といった習慣のチェックについて、アンケート形式の問診票を活用してもよいと思います。その上で、もしブラッシングの回数が少ない方に指導をする場合であれば、「忙しいと磨くのは大変ですよね。ですが、○○さんの場合、歯周病が進行してしまうので・・・」という具合に、今の状態をお伝えしながらブラッシングの回数が少ないことに気づいていただくことがポイントです。
どうやって磨いているかを聞かれて即答できる方はなかなかいません。そのため、私はチェアサイドで磨き方を確認する際は「今までに歯の磨き方について歯医者さんで指導を受けたことがありますか?」と聞いています。その返答によってアプローチを変えていきます。指導を受けていてもプラークコントロールが悪い場合は「自己流の磨き方に戻ってしまったのですね」といったことを話しながら、できるだけ自然な会話に繋げるように心がけています。
長期的に来院されている患者さんの場合
定期的にコンタクトをとっている患者さんの場合は生活背景の変化に注意しています。これまで上手に磨けていた方が急にプラークコントロールができなくなったりすることがあります。そのような場合は生活や体に何らかの変化が起こっています。「お体の具合はどうですか」「前回は○○とおっしゃっていましたが、その後いかがですか」と、介入しすぎない程度に生活背景をお伺いします。そして、聞き取ったことはメモを取り、次回以降に活かしていきます。
患者さんの年齢や環境によって、入退院・孫の世話・学業・残業続きや飲み会などのさまざまな事情があります。生活や体調をいろいろと聞き取りながら、磨く時間の長さや歯の状態に合わせて歯ブラシを提案しています。たとえば、磨く時間があまりない方であれば幅広ヘッドの歯ブラシを提案したり、場合によっては歯ブラシの使い分けの提案をすることもあります。ただし、患者さんのブラッシングのハードルが高くならないように気をつけています。
TBIはブラッシング指導ではなく、口腔衛生指導と考える
TBIとは、歯の磨き方を指導・アドバイスすることだと思いがちです。ですが、なぜ磨かなくてはいけないか、ブラッシングに時間が取れないときにはどうすればいいかを指導・アドバイスすることもTBIです。どちらかというと、口腔衛生指導や口腔保健指導の枠組みで考えるとわかりやすいと思います。
TBIは「歯頸部はこう磨いてください」「孤立歯はこう磨いてください」といった歯ブラシの使い方を説明するだけではワンパターンになりがちです。磨き方の説明は残存歯数や歯肉の退縮状況・補綴物の有無などで変わってきます。患者さんが10人いれば、口腔内の状態は10通り。患者さんへの伝え方は一人ひとり変わります。
ワンパターンになってしまうと思っている方は、TBIを苦痛に感じているかもしれません。特にあまり話を聞いてくださらない患者さんの場合は、「なぜこの患者さんは聞いてくれないのだろうか?」ということを考え、次は聞いてもらえるように別のアプローチをすることも必要です。
TBIの時間は限られていますので、時間が足りなければ歯の磨き方は患者さんの宿題にする場合もあります。磨き方のリーフレットを渡して、「リーフレットにやり方が書いてあるので、これを見てやってみてください。次回の確認時にやりにくいところをまたご説明しますね」といった感じです。
また、歯磨剤や洗口液なども、その時の患者さんの口腔内の状態によって選んでいます。
う蝕リスクが高いケースでは、単純にプラーク付着の度合いだけの問題ではなくなるため、フッ化物配合歯磨剤・フッ化物配合洗口液をどう選択するかを含めて、患者さんと一緒にどうしたら歯を守れるのかについて考え、いろいろなご提案をしていきます。
さいごに
TBIの中で一番大事なのは、「なぜそのプラークを取らなければならないのか」を患者さんに伝わるよう説明することです。それが伝わっていないと、患者さんのブラッシングは変わりません。だからこそ、はじめに患者さんのどこに問題が潜んでいるのかを把握することが大切です。
患者さんから学ばせていただいているという気持ちを持ちながら、日々研鑽を積んでいくことが大切なのではないでしょうか。