「自立している高齢患者さんのセルフケアのポイントは?」

「自立している高齢患者さんのセルフケアのポイントは?」

歯科衛生士さんから多くいただくご質問について、セミナーで講師を務める歯科衛生士の先生にお話を伺う「教えて先生!お悩み相談室」。

本シリーズのお2人目として埼玉県三郷市にある、みさと健和歯科の佐藤美智代先生にお話を伺いました。第1回目の今回は「自立している高齢患者さんへのアドバイス」についてです。

 

「高齢患者さんの、ブラッシングのモチベーションを上げるにはどのような方法がありますか?」

心も体も健康であり続けるためのブラッシング

高齢の患者さんの場合、歯科に来てそもそも何を目指すのかという点について考える必要があります。高齢になると次第に口腔機能も衰えていきます。だからこそ、患者さん個々に合ったゴールを見極めなくてはいけません。

一つのゴールとして考えられるのは、「心も体も健康でいられるために、美味しく食べることができ、楽しく笑うことができること」ではないでしょうか。そのために、口腔の健康を保っていくことが大切だと考えています。

「食べること」は、若者であっても、高齢者であっても楽しいことです。

年齢を若返らせることはできませんが、「今のお口の健康状態を維持していきましょう」とお伝えすることで前向きになっていただけることもあります。

最近は摂食嚥下に関するセミナーも頻繁に開催されており、歯科衛生士さんも多くの方が足を運んでいると思います。そのような機会で得られる知識をお伝えすることも、ブラッシングに対するモチベーションを上げるためには効果的です。

 

患者さんの年齢と、全身疾患を見極めて指導を行うことを心がけています

みさと健和歯科の患者さんは70~80代の方が多く、みさと健和病院の入院患者さんであれば90歳近くの方もいらっしゃいます。たとえば同じ75歳であっても、元気な方もいれば介護を必要とされる方もいます。70代は元気で過ごされていても、80歳を過ぎたところで大きな体調の変化に見舞われる方もいらっしゃいます。

そのため、患者さんの年齢やそれぞれの状況に合わせたゴールを見極め、ブラッシング指導を行うようにしています。

とても元気な方ややる気がある方に対しては、きちんと100%磨けるようにブラッシングの指導をしています。

一方で、口腔機能が落ちている方や口や手が動かしづらい方の場合には、できる範囲でブラッシングに取り組んでいただくようにしています。もともとブラッシングに興味が無い方も、やはり100%磨きは難しいです。その場合は、初めから100%ではなく85%を目指すなど、それぞれの状況を見ながらゴールを決め、そこに沿った指導をするように心がけています。

 

丁寧な説明を行うことで、患者さんのやる気が出る

高齢の患者さんにとっても、自分の孫と同じくらいの年齢の歯科衛生士さんからいきなり「ここが磨けていません」という指導をされても、なかなか素直に受け入れることは難しいと思います。

指導を行う時には、口腔機能をはじめ、どうして歯が汚れるのか、舌苔がなぜつくのかといったところまで丁寧にお伝えしています。

口腔機能は年齢とともに落ちてきてしまいますが、できない機能を少しでもできるよう、少しでも機能を維持するため、といった目的をしっかり伝えることができれば、ブラッシングに限らず興味を持っていただけるのではないでしょうか。

具体的な事例をご紹介します。

ある患者さんで体の右側に麻痺がある方がいらっしゃいました。この場合、歯を磨いていてもどうしても右側の磨き残しが多くなってしまいます。ですが、よくお話を伺ってみると、舌も右に動き、頬もブクブクと膨らませることができていました。うがいでも食渣が取れやすくなるとアドバイスをしたところ、「右麻痺だからできるとは思わなかった」と大変喜んでいらっしゃいました。

ご本人が「できない」と思っているような機能でも、「こうすれば良くなるかもしれない」という少しのアドバイスを伝えることで、前向きに取り組んでいただけることもあります。

 

これからは歯科がますます「お口の健康」にアプローチしていく時代

2018年4月から「口腔機能管理加算」として、診療時に100点の加算ができるようになりました。口腔機能を見ることに対して歯科でも点数がとれることになりました。舌の力を見る、口の乾燥、舌苔がどれくらいあるか、といった様々なチェックに対して、3項目以上該当すると管理指導ができるようになっています。

これは、高齢者が増えるなか、う蝕や歯周病・補綴だけではなく口腔機能についても歯科からアプローチしていくべきだということだと私は思っています。口腔機能管理が多くの歯科医院でも活用していけたらと思います。

当院では舌圧測定や乾燥の度合いを評価する機器を取り入れています。数値化する事で客観的にとらえ、舌苔の付着や口腔の汚れ、食事中や水分でむせる原因はなぜなのか等もわかりやすく説明できます。

口腔機能の評価をすることで、モチベーションも上がり、帰りは笑顔になられる患者さんもいらっしゃいます。口の役割についてお伝えすることでも、前向きなブラッシングケアをしていただけるかもしれませんね。

2016年の歯科疾患実態調査では、2人に1人は80歳になっても20本以上の歯が残っていることがわかっています。これからは歯が残っている人が、どのように口腔の清潔を維持していくのかが大切だと考えられます。

 

「高齢患者さんの残根歯のケアのポイントは何ですか?」

今の口腔状態を維持するためのポイントは「保湿と根面カリエス」

自立している方は今残っている歯をしっかりと残すことが大切です。

高齢者は唾液の分泌を抑制する薬を飲んでいる方も多く、加齢の影響もあり口腔乾燥が問題になります。

特に気を付けるポイントは、保湿と根面カリエスです。

水分を取ることは大切ですが、水分摂取が難しい環境にある方に対しては、口腔保湿剤を使用していただくと効果的です。自立している患者さんは簡単に使えるスプレー式がおすすめですね。

根面カリエスは殺菌成分とフッ素が配合されたセルフケア製品を使いながら、う蝕と歯周病の両方のケアを行っていくのが良いのではないでしょうか。

 

うがいの仕方もチェック

また、うがいの仕方も要チェックです。うがいをするときに頬が膨らむか、むせないかなどを見ます。

水をためてブクブクうがいをすることが難しかったとしても、それぞれ左右にためて吐くなど1回ずつのうがいで対処することもできます。その方の機能を見て、適したうがいの仕方をおすすめするのはいかがでしょうか。

うがいは、今の口腔内を維持するためにも大切です。

 

話すことも口の訓練になる

口の訓練でいうと、女性は比較的おしゃべりが得意ですが、反対に男性は不得意な方が多くみられます。特に仕事を退職したあとなどは、話す機会が減ってしまいます。そうすると口腔機能が落ちてしまうこともあるのです。

その場合、新聞を読む習慣がある人であれば、見出しを声に出して読んでみるといったように、日常の生活の中で声を出すきっかけを作ってアプローチしてみても良いかもしれません。

 

さいごに

患者さんに対してただ歯ブラシの指導をするだけではなく、楽しく食べていただくためにお口を清潔にすることが大切だということを、口の機能についても含めて伝えることでブラッシングについて前向きに取り組んでいただけることが多いです。それぞれの口腔状況を見極めて、患者さんに合ったアドバイスを行ってみてはいかがでしょうか。

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