訪問診療で活躍する歯科衛生士さんが増えています!
最近、介護施設での口腔ケアの需要が特に高まっています。
『介護施設』と聞くと「あまり縁がない」と思う歯科衛生士さんも多いかもしれません。ですが、高齢社会を迎え、どんどん増えてきているのが『訪問診療』での口腔ケアです。
今日は、訪問診療に携わって、10年以上にもなる、埼玉県さいたま市にある矢尾歯科医院で活躍している歯科衛生士さんをご紹介します。
・訪問診療と院内診療はどう違うのか
・実際の訪問診療はどのように行っているのか
・訪問診療で苦労したポイントはどのようなところか
以上を中心にご紹介するので、ぜひ、最後まで読んでみてください。
介護分野で口腔ケアのスペシャリストを目指す近藤さん
今日ご紹介する歯科衛生士さんは、院内での診療の他にグループホームや老人施設・在宅の往診などの訪問診療で高齢者の口腔ケアに携わって10年以上になる近藤千恵さん。
近藤さんは、『介護を必要とする患者さんへ、口腔ケアという専門分野でスペシャリストを目指していく』という思いで日々お仕事をされています。
訪問診療を始めた当初は、訪問診療ならではの難しさに直面し、苦労もされたそうです。
一体どのような苦労があったのでしょうか?
訪問診療の難しさ、それは・・・
医院を受診する患者さんは、ご自分で歯の状態を説明できる方がほとんどです。一方、訪問診療の患者さんの場合は認知症があったり、おしゃべりが思うようにできないなど、痛みがあっても訴えることができない方が多くいらっしゃいます。
そのため、粘膜の変化や歯茎の腫れ・入れ歯の状態などを注意深く見て、些細な変化も見逃さないことがとても重要です。
とはいえ、高齢者の方にとっては長く口を開けていることは大変です。だから、できるだけ短時間でケアしなければなりません。
診療室のように設備が整っていないところで、手早く注意深く口腔ケアを行うのが、訪問診療の難しさだと感じています。
最初はなかなか口の中を見せてもらえなかった経験も・・・
訪問診療時に患者さんにリラックスしてもらうことも大切です。
訪問診療を始めた頃は「お口の中を見せてください」と言っても、なかなか応じてくださらない方もいらっしゃいました。
当時の私は自分の仕事を進めることばかりに気をとられていました。そのため、「歯医者は嫌い」「口の中を見られるのは嫌」という高齢者の方の気持ちを察することができなかったのです。
訪問診療を経験して、患者さんをリラックスさせることが、いかに大切かを改めて痛感しました。
実際の仕事風景:訪問診療では準備がとても大切です!
訪問診療に行く前の準備風景です。
訪問診療先では診療室のように設備が整っていません。そのため、院内に近い環境を整えるために、ライトやポータブルユニットは必需品です。
先ほど準備した器具をケースに入れ、訪問診療へ先生1人と歯科衛生士1~2人で訪問します。
現在は1日で10~15人の患者さんを診療しています。
手早く口腔ケアを行うために、歯ブラシ選びにも気を遣っています。
コンパクトな歯ブラシのほうが磨きやすいと思っていたのですが、幅広ヘッドの歯ブラシを使ってみてビックリしました。歯周部や歯肉溝にも入りやすく、磨いた後の歯がツルツルします。
コンパクトな歯ブラシではうまく磨けなかった患者さんにすすめたところ、磨き残しがなくなり効果を感じています。
医院ではプラークコントロールの指導に力を入れています。今では、治療計画の提案を任されているんです。
「あなたが来るのを待ってたわよ」と言われるのが、何よりの喜びです
最初はなかなか患者さんに口を開けてもらえなかったので、先生や先輩たちのアドバイスを受けていました。
また、認知症ケアに関する本を自主的に読み、接し方を勉強しました。
世間話をしたり一緒に舌体操をしたりするようになると、スムーズにできるようになったのはもちろん、笑顔が絶えなくなって、私自身も仕事を楽しめるようになりました。
今では、「あなたが来るのを待ってたわよ」と患者さんに言われるのが、何よりの喜びです。
『患者さんには、人生の最後まで食べる楽しみを続けていただきたい』
訪問診療の患者さんの中にはガン化するおそれのある方がいらっしゃったり、院内診療ではあまりない症例を見ることもしばしばあります。
異常を見つけた時に、経過観察を行っていけばいいものなのか、放置しておくとガン化の可能性があるものなのかがわかれば早期発見につながりますから、症例写真が出ている専門書で勉強を続けています。
今は介護歯科のスキルを高めていくことが私の目標です。
2008年には、介護歯科衛生士の試験に挑戦し、合格しました。それを弾みに、機会あるごとに介護関連の講習会に参加しています。
最近、特に勉強しているのが摂食・嚥下です。おすすめの講習会を先生が教えてくださるので、とても効率よく学べています。
「患者さんたちには、人生の最後まで食べる楽しみを続けていただきたい」という思いを胸に、これからも学び続けていきたいですね。
『歯科衛生士による口腔ケアは、患者さんの体調を左右するほど大切です』(矢尾喜三郎 院長)
患者さんとのインフォームドコンセントを大事にしている当院では、患者さんとの対話を通じて希望を汲み取るよう心掛けています。
私は大学病院の補綴科(ほてつか)で入れ歯を専門として非常勤で勤務しています。大学病院で得た最先端の技術・知識を、院内診療や訪問診療の患者さんに提供しています。
訪問診療は院内診療に比べるとリスクが高いのが一般的です。厳しい状況であっても高度な技術を提供するためには、院内診療で一定レベルに達していることが不可欠です。
近藤さんはオールマイティに業務をこなせるだけではなく、患者さんの心の痛みがわかる歯科衛生士でもあります。
歯科衛生士が行う口腔ケアは、患者さんの体調を左右するほど大切なものです。今後も技術をより高め、マルチな歯科衛生士として活躍することを期待しています。
まとめ
今日ご紹介した近藤さんのお話で訪問診療に携わる歯科衛生士さんのイメージが少しはできたでしょうか?
まだまだ介護の現場に出向く歯科衛生士さんの割合は高くはありません。ですが、高齢社会の時代を迎え、ますますの活躍が期待されています。
歯科衛生士さんのほとんどは歯科医院で働いていますが、介護施設に常駐で働いている人もいます。その割合は、3.0%から3.7%(平成27年)とわずかではありますが増えてきています。
今は訪問診療を行っていない医院さんでも、施設からの要望で訪問診療を始めるケースが今後は増えてくると思います。
その時に備え、高齢者の方向けの口腔ケアや最適な歯磨剤・洗口液・歯ブラシなどの選び方も今のうちに勉強しておきたいですね!
今後も活躍している歯科衛生士さんをどんどん紹介していきますので、お楽しみに♪