要介護者・高齢の入院患者さんの口腔ケアのポイント
最近、高齢になっても天然歯が20本以上残っている高齢者の方が増えています。
要介護者や高齢の入院患者さんの口腔ケアで押さえるべきポイントは、「口腔内の乾燥対策(保湿ケア)」と「根面う蝕の予防(ルートケア)」の2つです。
命の寿命と健康寿命には10歳の差があるといわれていますが、それは歯も同じです。
「いつまでもおいしく食べられる」というQOLを確保するには、しっかりと口腔ケアをし、患者さん自身の歯を残すことが大切です。
今日は、『要介護者・高齢の入院患者さんの口腔ケア』について、「プロケア」「ホームケア(介護者・家族が行う口腔ケア)」の2つの側面からご紹介します。
口臭・う蝕・歯周病予防に欠かせない保湿ケア
口腔内の乾燥による症状には「口臭」「義歯を入れると痛い」「口がひりひりする」などがあり、原因としては薬の副作用・加齢・喫煙などの生活習慣・食生活などが考えられます。
自立している方とは異なり、要介護の方や入院患者さんはご自身で歯磨きができない場合も多く、より慎重にケアを行う必要があります。
保湿ケア:プロケア
要介護の方や入院患者さんの中には閉口状態を維持できない方もいらっしゃいます。すると口腔乾燥が顕著になり、口蓋に厚い痂皮(かひ)ができます。
そのような場合は無理に痂皮をはがすと出血・痛みの原因になるため、口腔湿潤スプレーでふやかしてから取るようにします。
保湿ケア:ホームケア
介護現場で最も課題となるのが「時間が取れない」ことです。そのため、現場での口腔ケアは「素早く・簡単に」行えることがポイントです。ホームケアで簡単に保湿をする方法としては、口腔湿潤スプレーを使う方法があります。
液状の湿潤剤は、誤飲の危険性や寝たきりの場合には吐き出しが難しいことがありますが、口腔湿潤スプレーの使い方は簡単で舌にスプレーをするだけです。介護をする方の手間をほとんど増やすことはありません。
さらに、毛がやわらかい幅広ヘッドの歯ブラシを併用することで、効率よく舌苔や痂皮を除去しやすくなります。
う蝕予防のために絶対必要なルートケア
加齢とともに歯肉が退縮し、根面が露出するようになると「根面う蝕」のリスクが非常に高くなります。
そのため、QOL確保のためには根面う蝕の予防もしっかり行う必要があります。
根面う蝕予防:プロケア
通常の根面う蝕の予防と同じく、根面のプラークを丁寧に取り除き、フッ素を塗布します。
患者さんが対応できるようであればブラッシング指導もするとより効果的です。
根面う蝕予防:ホームケア
う蝕予防のためにブラッシングは欠かせませんが、介護者の手が足りない、時間が取れないといった理由で十分なブラッシングが行われていないケースがあります。
多く使用されているものの中に歯ブラシの毛先が山切りタイプのものがありますが、歯根が露出している場合は山切りタイプの歯ブラシでは痛みを感じる場合があります。
そんな時に活躍するのが幅広タイプの歯ブラシです。植毛面積が広くブラッシング圧が分散されるために、力が入りすぎても痛みを感じにくく、歯肉に優しい歯ブラシです。
幅広ヘッドなので、歯磨きが苦手な方でもプラークを効率的に落とすことが可能です。
患者さんの状態に合ったアイテムの提案が大切!
介護が必要な方・入院患者さんは、さまざまな背景を抱えています。通常のTBIと同じで、患者さんそれぞれの状態に合ったアイテムを提案し、口腔環境を整えることが大切です。
たとえば、
・手が麻痺してうまく動かせない人には、軽量で疲れにくい電動歯ブラシをおすすめする。
・だ液が少ない方には、口腔内のすみずみまで行き渡る泡状の歯磨剤を使う。
・胃瘻(いろう)により口を使用しない患者さんには、ジェルの甘みや香りを体験してもらう。
・根面う蝕予防用の歯磨剤を使う。
など、これ以外にもさまざまな提案ができます。
患者さんに合った方法を選んで、患者さんから「ありがとう」の声を聞けると、歯科衛生士さんとしてはとても嬉しいですよね。
まとめ
以前は歯の少ない高齢者の方が多いために「保湿ケア」だけで十分でしたが、今は歯の残っている方も多く、「保湿ケア」と「根面う蝕予防」の2つの側面からアプローチをすることが大切です。
さらに、要介護の方や入院患者さんは一人ひとり状況が違うため、患者さん個々の状態に合った提案ができるようになるとベストです。
いつまでも患者さん自身の歯で過ごせるようにし、QOLを向上させることが歯科衛生士としての大きな役割なのではないかと思っています。
※参考:要介護者や入院患者への口腔ケアに役立つ私のマストアイテムとその活用法